新作ギター開発記

ハンドクラフトギターフェスで出展したアクリルパネルのギター、見に来てくれたお客さん、手に取ってくれたお客さん、twitterなんかで面白いと反応してくれた皆さん、興味を持ってくれた皆さんありがとうございます。

出展したギター他、各種デザインをしてくれた上に当日現地でもサポートしてくれたデザイナーの加藤さん、短期間にも関わらずギターとして完成させてくれて搬入直前まで製作を助けてくれたラッキーサウンド山本さん(以下ラッさん)、おおらかに見守ってくれた僕の家内と娘、誘ってくれたワルツギタースタジオの柳さん、フェスで知り合った製作家の皆さん、本当にありがとうございました。

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オレンジのモデルが「corona」、グリーンのモデルは「1978」と名付けました。もう一台展示していないモデルで「pluto」という黒いデザインがあります。

このギターはボディーの構造に大きく特徴があり、シャーシと呼ばれる木材の芯の表と裏にレーザーカットしたアクリルパネルを前後6本ずつのボルトで貼り付けています。ボルトを外せばアクリルパネルを着せ替えることができますし、シャーシ本体の木材自体を交換して、従来のエレキギターでは難しかった樹種によるサウンド変化を確かめることだってできます。

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アクリルパネルはデータを元にレーザーで正確に切り出されますのでデザインの自由度も高く、パネルの成形色を生かした独特の質感はステージでも目立つことでしょう。アクリルパネルはカラーも豊富な上、透明なパネルの裏側に色々な色の紙や写真を挟む等すればもっとバリエーションを増やすことだってできます。もちろんこういう薄板なら何でもパネルとして使えるので、木材はもちろん、ピックガード用の塩ビ版や金属板をパネルにすることもできます。

そもそもエレキギターって、弾く楽しさの他にいじる楽しさがありますよね。アコギをいじる人はそんなに多くないですけど、エレキは持ち主によって大抵何かしらの改造がされていたりします。このギターはそんないじる楽しさも味わいたい人のためのギターになる予定です。

このギターならその日の気分で気軽に外観を取り替えたり、自分好みに変えたりできるようになります。

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このギター用に新たに開発した超薄型ピックアップはコイルレスでロー・インピーダンス。非常にクリアでワイドレンジな音質です。薄型にこだわったのは、ザクリ無しのボディーに後から取り付け可能にしたかったためです。ピックアップのマウント位置というのはギターにとってとても重要で、だからこそギター本体の完成後に自分の耳で音を聴きながら取り付けるような自由度が必要です。構造はリボンマイクやアルミトーン、トランセンサーに近いと思います。

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ひとまず音の出る状態に持って行けたのが大きな成果ですが、まだまだ課題もあり、前後パネル間の処理が決定していなかったりPUの磁力と出力のバランスが悪かったりします。ギター、ピックアップ共にまだ試作と検証を続ける必要はありますが、頑張ってなんとか製品化にこぎ着けたいと思います。

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このギターのアイディアはずっと前からあったのですが、具体化に向けて動き出したのはごく最近です。半年前にハンドクラフトギターフェスに出展することになって、手工ギターの祭典にいつも作ってるコンポーネントギターを出す訳にもいかず、どうしたものかと考えた時に僕にとって一番現実的なアイディアがこれでした。
そもそもギター職人暦30年みたいな人が沢山いる中にピックアップばかり作っていた僕がいきなり飛び込んで、ノミとカンナで木工技術の勝負を仕掛けるのは今時漫画でもやらないような無茶な設定です。
21世紀の今、レオ・フェンダーがこれから楽器を作るならどうするだろうか?などと色々妄想しまして、結果これまでの延長線上にあるものとは違うギターを作ってみようということにしたのでした。

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木材は高騰しており、いい木材は大切に使って行かなければなりません。しかもエレクトリックギターの製作というのは、木工や塗装にかかる人件費がそりゃあもう半端なくかかる。ピックアップのコイルを巻くのも地味に大変です。

「じゃあ木材使うのやめようか」
「塗装もやめようか」
「コイル巻くのもやめようか」

と、最初の発想はたぶんこんな感じです。

「塗装していないギターを売る」ってtwitterでつぶやいた時に、アクリル板でも使うんですか?というレスが無かったのが嬉しかったです。そういうレスが帰って来たらやめてたかもしれません。

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今回このギターの開発はチームで行いました。といっても僕が一方的に巻き込んだ形ですけど。
デザイン関連はアストロノーツのロゴも考えてもらったデザイナー加藤積さん、製作関連はAstronautsの日頃の活動を全面的に見てくれているラッさんに大部分をお願いしています。余裕があれば電装系のギミックをエフェクトビルダーの小池さんにプロデュースして貰おうと思っていましたがそちらは間に合いませんでした。

こういった製品開発をチームでやる一番のメリットはアイディアが生まれて形になっていくスピード感と相手の提案が想像を超えてくるスリルです。まるでバンドマジックみたいなもので、今回は大体2ヶ月だったんですがなかなか刺激的な製作プロセスを経験できました。
僕は自分がワクワクすることに人を巻き込みたくなる性格なので、巻き込まれた方はいい迷惑だと思います。でもバンドやってたりモノ作りが好きだったりする人は大抵苦笑しながら巻き込まれてくれますね。

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ギターのコンセプトは最初からはっきりしているので、まず初めに課題になったのはギター本体のシェイプです。加藤さんには何度も何度もやり直してもらって今の形になりました。一番最初は僕の好みをふまえたジャズマスターやテレキャスターに近いボディーラインを提案してくれたんですが、今回のギターはフェンダーを連想させるものにしたくなかったので、ホーン部やくびれの部分なんかにかなりしつこく注文を出しまして、最終的にバイオリンを始めとした色々な弦楽器の要素を入れて何度も練り直しました。100種類ぐらいのギターデザインを見て20種類ぐらいからヒントを貰ったと思います。

最終的に固まった案をイラストレーター形式でやりとりして、ブリッジの位置や各穴の大きさ、ネックポケットのサイズ合わせ等をしてちゃんと立体に組み上がるように考えます。ここまで一切素材をいじらずデータ上のやりとりだけ。まさに設計作業です。しかもこの間僕ら全く会わずにLINEでのやりとりだけです。

ここからパネルの切り出し、パーツ、シャーシの木材なんかを業者さんに一気に発注して、この後ようやくギター製作と呼べる工程に移ります。

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製作は僕とラッさんの二人で進めます。やはり実際に加工したりすると元々考えていた通りにいかない部分が出てきます。そういうのを設計にフィードバックさせて微調整していく。あとは設計時に考えきれなかった部分を一つずつ解決していきます。
ストラップピンの取り付け方法、パネルとパネルの間の処理。浮きピックガードの構造、PUとのクリアランス、ブリッジ・サドル高とネック角の関係、新作ピックアップの出力に合致するポットの選定。本当にこの設計で新しいPUから音が出るのすら直前まで分かりませんでした。最終的に搬入の直前まで作業しました。

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ギター本体と平行して加藤さんにはパンフレットやポスター、ショップカードも作成してもらいました。「進化するビザール」に落ち着くまでにいくつも候補のコピーがあったんです。

バタバタでしたがとにかくフェスに間に合ってよかったです。
coronaは音が出ますが1978はハリボテ、plutoは全然間に合いませんでした。
coronaと1978は会場で沢山の人に触ってもらって、色々フィードバックをいただきました。
あとはやはり薄型ピックアップに興味を持たれる方が結構多かった。

僕も自分で弾いてみていくつか改善箇所を見つけたので今後少し手直しすると思いますが、現時点でかなり魅力的な形になっていると思います。ピックアップの数や色のバリエーションもこれから考えようと思います。
アメリカに持って行けるようにヘッドのデザインも変えるつもり。アルミトーンやトランセンサーのパテントに抵触しないかが気になるので、ピックアップは通常のコイルありのものを載せることも含めてこちらもゼロベースで再検討です。次の目標はNAMMです。NAMMで会いましょう。

もっともっと面白いギターにして、ギターを選ぶ時の選択肢に入れてもらえるものを作ろうと思います。

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